研究概要

はじめに

 材料の破壊閾値を越えるエネルギーの短パルス短パルスレーザーを材料表面に照射すると、その表面はアブレーション(飛散剥離)し、短パルスレーザー特有の周期的な微細構造物(LIPSS)が表面に自己組織的に形成されます。このLIPSSはレーザー波長より短いピッチの格子間隔を持っています。しかし、その形成機構は分かっていません。LIPSSはどこまで小さくできるのか、そしてどのようにして周期の均一性を高めるのか、それらをどのように制御するか、これまで糸口が掴めませんでした。

LIPSSの形成機構解明を目的としてレーザー物質相互作用の観点から4つの過程に分けに分けて研究に取り組みました。そしてレーザー吸収過程を調べる実験では、レーザー照射された金属表面から放出されるイオンは多光子吸収[参考文献1]と光電場(表面ポテンシャル障壁低下)による電子放出が関わっていることを明らかにしました[参考文献2]。また、微細周期構造形成時に放出されるイオンのエネルギースペクトルと類似しており微小空間からクーロン爆発によりイオンが放出されていることを示唆していました。微細構造物の格子間隔がレーザーフルエンスに依存することを発見し[参考文献3,4]、形成機構にはレーザーとレーザー生成プラズマとの相互作用が関わっていることを明らかにしました[参考文献5]。加えて、材料の結晶性はアブレーションによりアモルファス化[参考文献6]すること、役割の異なる複数のパルスからなる複合レーザー照射により周期的微細構造物の大きさをレーザー波長λの1/13程度まで微細化することに成功[参考文献7]しました。更に照射条件を最適化することで極めて高い周期性(均一な周期性)のLIPSSが形成[参考文献8]されるなど様々な新しい現象を見出しました。材料表面に所望の微細加工を施すにはレーザーと材料との相互作用を理解し制御することが求められています。

研究目標

 短パルスレーザーにより自己組織的に形成される微細構造物の基礎研究と応用研究に取り組み、その形成メカニズム解明と微細構造物を材料表面に付加することで発現する新奇な機能を見つけることを研究目標にしています。そして新機能を模索するため、計測評価に必要なサイズの材料を作るレーザー機能性材料創成技術を開発します。学内の協働研究や融合研究を加速させ微細構造物形成と新機能材料創成の研究分野において研究室のプレゼンスを示したいと考えています。  

今後の取り組み

 東海大学では微細構造形成解明とその応用を目的とし、新規に複合レーザー加工システムを構築します。またレーザー照射により表面にできる微細構造の応用研究では、新機能を模索するため、計測評価に必要なサイズ(5cm×5cm)の材料を作るレーザー機能性材料創成システムを開発します。これにより、Q-LEAP Flagshipや共同研究機関との協働研究や融合研究を加速させ微細構造物形成機構解明と新機能材料創成の研究分野において今まで以上に強固な連携を目指します。

    東海大学には文部科学省:先端研究基盤共用促進事業の補助により設立・維持・運営している技術共同管理室及び株式会社ニコンインステックによる産学連携包括協定に基づき開設した東海大学イメージング研究センターがレーザー実験室に隣接しており、そこには35台を超える材料分析装置や15台のバイオイメージング機器があります。充実した環境を利用することで新たな連携を生むだけでなく微細構造形成の基礎、新規材料応用及びバイオ応用研究を加速します。


参考文献

   1.     M. Hashida, A. Semerok, O. Govert, G. Petite, Y. Izawa, and J. F-. Wagner: "Ablation threshold dependence on pulse duration for copper", Appl. Surf. Sci. 197-198 (2002) 862-867.

       (被引用回数:177回)

   2.     M. Hashida, S. Namba, K. Okamuro, S. Tokita, S. Sakabe: "Ion emission from a metal surface through a multiphoton process and optical field ionization", Phys. Rev. B 81(2010) 115442-1-115442-5. 

       (被引用回数:45回)

  3.     K. Okamuro, M. Hashida*, Y. Miyasaka, Y. Ikuta, S. Tokita, and S. Sakabe: "Laser fluence dependence of periodic grating structures formed on metal surfaces under femtosecond laser pulse irradiation",  Phys. Rev. B 82 (2010) 165417-1- 165417-5. 

      (被引用回数:171回)*Corresponding author

  4.     M. Hashida, Y. Ikuta, Y. Miyasaka, S. Tokita, and S. Sakabe: "Simple formula for the interspaces of periodic grating structures self-organized on metal surfaces by femtosecond laser ablation", Appl.Phys. Lett. 102 (2013) 174106-1-174106-4. 

      (被引用回数:39回) 

  5.     A. M. Gouda, H. Sakagami, T. Ogata, M. Hashida, S. Sakabe: "Formation mechanism of the periodic grating structure by the surface plasma wave", Plasma Fusion Res. 11 (2016) 2401071-1-12401071-4.(被引用回数:9回)

  6.     M. Hashida, Y. Miyasaka, Y. Ikuta, S. Tokita, and S. Sakabe: "Crystal structures on a copper thin film with a surface of periodic self-organized nanostructures induced by femtosecond laser pulses", Phys. Rev. B 83 (2011) 235413-1-235413-5. (被引用回数:28回)

  7.     M. Hashida, L. Gemini, T. Nishii, Y. Miyasaka, H. Sakagami, M. Shimizu, S. Inoue, J. Limpouch, T. Mocek, and S. Sakabe: "Periodic graing structures on metal self-organized by double pulse irradiation", J. Laser Micro/Nano Eng., 9 (2014) 234-237. (被引用回数:17回)

  8.     M. Hashida, Y. Furukawa, S. Inoue, S. Sakabe, S. Masuno, M. Kusaba, H. Sakagami, M. Tsukamoto: "Uniform LIPSS on titanium irradiated by two color double-pulse beam of femtosecond laser", J. Laser Appl. 32 (2020)022054-1-022054-4. (被引用回数:6回)